マンション投資の鉄人

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第四の鉄人

実録体験談―私のマンション投資暦

千葉県 Y.O(外資系投資顧問会社・投資運用部長)

自己紹介

 「まるでウェディング・ケーキのよう」と形容されるアメリカの国会議事堂「キャピトル」が窓外で38度の猛暑に歪む、出張先のワシントンのホテルの一室で今この原稿を書き始めた私は、普段は千葉県市川市の自宅から東京のオフィスに通勤する39才の会社員です。

 会社での仕事はファンドマネジメント。有価証券投資の計画・実行業務で、何千億という資金が内外の債権・株式他の金融商品に投資させる現場に身を置く「投資のプロ」といえる立場にいます。

 一方、個人としてのマンション投資に関しては、多くの読者よりもはるかに経験は浅く、実際我が5人家族が住む市川の自宅は現在も借家というありさまです。投資用のワンルーム物件も最初に買い付けたのが1993年の暮れです。以来手元にあった高利回りの郵便定期預金やボーナスを頭金に当て、ワンルーム・マンションやワンルーム・オフィスを買い増してきたため、現在では首都圏に1戸と札幌に6個を所有しています。不動産投資の経験年数はわずか一年半余りで、ある意味では「買い」以上に難しい「売り」もまだ手がけた事がありません。

 それにもかかわらず筆をとったのは、利回りの高さに魅力を感じて始めたマンション投資に、不況の中でも個人の投資運用手段として多くのメリットがある事が見えてきたためです。畑違いながら、投資を日常業務としている者の視点から、いくつかの事実を指摘させていただきたいと思います。

 まずは厳しいお話から・・・

不動産の長期的値上がり余地の限界を示す人口動態

 「不動産投資でボロ儲けできる時期がまた来るのか?」と問われれば、「余り期待しない方がいいでしょう」と答えています。バブルの負の遺産を完全に克服するのにはまだ数年は必要ですし、長期的にも日本のように人口が伸びなくなった国では、不動産価格の上昇ペースが頭打ちになってくると見ておいた方が良いでしょう。今の日本の年間人口増加率はわずか0.3%弱と先進国中でももっとも低い部類に属しています。厚生省の推計でも人口は2010年に1億3千万人弱に達した後は減少に転じると予測されているのです。不動産需要を左右する15~64才のいわゆる生産年齢人口は、実は今年をピークとして来年から一足先に減り始めることが見込まれているのです。我々が小・中学生の頃、教科書で見た人口ピラミッドはその後の経済成長を予感させるきれいな三角形をしていましたが、今では「ピラミッド」はズングリ・ムックリ型へと変容していました。

 とくに現在成人しつつある団塊の世代の子供達(いわゆる「団塊ジュニア」)が来世紀はじめに働き盛りの年齢に移行した後は、学生数、新卒さんの採用、新婚さんの数も減少します。これに伴って学校・工場・オフィス・商店・社宅・マンション等に対する需要の伸びも頭打ちとなってきます。決して不動産市況にとって追い風といえる状況ではありません。数年後、不動産バブルの後遺症が完治した後も不動産価格の継続的な値上がりを前提にした投資計画は組まない方が良いでしょう。

 利回り重視の投資スタンスがますます重要になります。

可能性秘める札幌の不動産市場

 ちなみに、日本の大都市の中では現在までほぼ一貫して札幌が人口増加率トップの座を保ってきました。最近でも年8%強の増加率は、横浜・仙台・福岡など他の成長都市のレベルを上回っています。道内からの人口流入が続いているのです。札幌は今や人口で神戸や京都を上回る、サービス産業中心のスマートな大都会に成長しています。

 気掛かりなのは北海道も札幌も国の公共投資に対する依存度を年々高めてきてしまった点です。地元の財界を代表する企業の多くは建設会社というのが実状で、企業アナリストの判断でも魅力的な成長企業が他の地域に比べて少ないのです。

 公共投資依存の体質を反映して地元財界は新幹線の札幌への延長運動等を展開してきました。
しかし、札幌経済を長期的に繁栄させるために本当に必要なのは、高すぎる国内航空運賃を是正する事ではないでしょうか。アメリカでも航空運賃の自由化後、いくつもの地方都市が旧来の経済中心地から育ち盛りの企業やその従業員を引き付け、以前は想像さえできなかったような繁栄を実現させています。航空運賃が区間によっては自由化前の数分の一にまで低下した事のメリットはこれらの地方都市にとって予想以上に大きかったのです。

 東京からの所要時間で比べれば札幌は大阪と大差ありません。現在大きく差が開いてしまうのは交通費の面なのです。札幌を遠くの街にしてしまっている現行の航空運賃が値下げされ、私達が飛行機を新幹線並みの「日常の足」として利用できるようになれば札幌経済にもはずみが付くことでしょう。
この時は札幌の不動産市況も底上げされる公算は充分にあります。

株にはない不動産投資のメリットは生活実感が生かせること

 今度は個人の資産運用手段として馴染み深い株式投資と不動産投資を比較してみましょう。先に述べた高齢化による経済活力の低下は株式にとっても長期的なマイナス材料になってくることは言うまでもありません。「男は一様に男であるが、女はそれぞれに女である」などと言われます。結婚相手としてもともと小粒揃いの男には当たり外れの差が小さく、社会の束縛から比較的自由に育つ女性には個人差が大きいことを指しているそうですが、事の当否は無論私などには検討もつきません。ただ「不動産は一様に不動産であるが、株はそれぞれに株である」という事は言えると思います。不動産市場では特殊な例を除けば程度の差や時間的なズレはあっても様々な物件の価格は同じ方向に動いてきました。ところが株式市場では「個性的な」値を示す銘柄が多くあります。それだけ株式投資では銘柄選びが重要だという事になります。(今後は不動産投資における物件選びももっと重要になってくるとは思われますが)

 では、相応の研究を重ねてかぶの銘柄を選んでいる個人投資家がどれだけおられるでしょうか?実際には不動産の物件選びをする時の方が株の銘柄選びをする時よりもはるかに厳しい選択眼が働いているのではないでしょうか。自分が株を持っている(または買おうとしている)会社の自己資本比率・有利子負債利子率・総資本利益率をどれだけの投資家が調べた事があるでしょうか。でも自分が買った投資用マンションの頭金が何割で、ローン金利や家賃収入の利回りがいくらであるかは誰でも意識しているはずです。さらに株式投資している会社の製品やサービスが、どれだけ他社に対して競争力をもつものなのかは、自分の専門分野の会社でもない限り評価するのは難しいところです。ところがマンション投資の場合なら同程度の価格の物件と比較して物件のグレード・内容や設備の状態・立地・環境・日当り・管理の良し悪しなどについてどちらの物件が優れているか(自分がそこに住む事を想定して)自信をもって判断できるはずです。

 上場企業の将来性を占うためにはどうしても証券会社等の調査レポートに頼らなければならないのが個人投資家の置かれた立場でしょう。これと比べて居住用の不動産であれば入居者にとっての魅力度や投資採算ラインに関して自分自身で診断する事ができます。