マンション投資の鉄人

<<一覧へ戻る

第二十七の鉄人

いろいろあった不動産賃貸業 2011年を振り返る

東京都在住 玄米茶(元 証券アナリスト)

●私の自己紹介と所有物件
 私は2008年まで約20年間金融業界で証券アナリストの仕事をしていました。仕事が大好きで楽しく働いていたのですが、2002年に母が急死した際に、ふと「「雇われているだけだと職を失った時にがっくりくるかも?」と思うようになりました。その直後父が1年近く入院生活を送ることになったので、父の病院と留守宅と自宅を往復する生活が始まったのをきっかけに、不動産投資の書籍を読んだりセミナーに参加したりしながら勉強を開始しました。そして最初に投資したのは札幌でした。それが2004年に札幌でアパマンプラザの佐藤さんからご紹介を受けたワンルーム物件だったのです。現在の所有物件は札幌市に区分所有物件3件、千葉県市原市に木造アパート4件、鉄骨物件1件、貸家2件、区分1件、埼玉県に貸家1件、東京都に区分2件となります。ある程度物件数がまとまったのを機に、2008年会社員を辞めて専業大家になりました。

 2011年3月11日に発生した東日本大震災は私の不動産賃貸事業にも大きな影響を及ぼしました。当時を振り返ってみることにします。

●最初に心配したのは市原市の工場火災
 地震発生後、自宅と親族の安否確認ができたあと、心配になったのは市原市の工場火災でした。私が集中して物件を所有しているエリアから10-20キロ圏内にある工場が地震発生まもなく爆発を起こしたと報じられていたからです。
 不動産会社の担当者さんとは直後に電話連絡で安否を確認し、その後は連絡を待つことにしていました。火災は一向に収まる気配がなく、結局1週間くらい燃え続けていたため、物件周辺環境がとても心配でした。

●次に連絡があったのはアパマンプラザの佐藤さんから
 地震直後に原発事故が報じられ、その心配で頭がいっぱいになっているころ、アパマンプラザの佐藤さんからご連絡をいただきました。法人契約をしていて3月末に退去予定の方は仙台からの単身赴任者でした。
 ご自宅と会社が被災し、急遽退去日を繰り上げて出て行かれるというご報告です。幸いご家族や会社の方々の命には別状がなかったとのことでしたが、交通手段が遮断され大変な迂回をしながら帰宅されると伺い、ただただ無事をお祈りするしかありませんでした。
 実はこの物件は、法人契約をいただく以前は独身の女性に長らくお住まいいただいておりました。この方が退去されることになったあと、佐藤さんのご提案で家具家電を新規に設置して法人契約がいただけるようなリフォームを施しておりました。
 その結果、退去まもなくお申し込みが入ったのです。
 埼玉県在住の妊婦の方が、原発事故の影響を懸念されて幼いお子さんと実家のお母様と3人で転居されすぐにお引越しができないご主人と当面別れてお住いになるとのことでした。私自身も原発事故の影響を非常に懸念しておりました。幼いお子さん、これから生まれるお子さんのおられるご家庭の懸念はいかほどのことか、と非常に複雑な思いが交錯したものです。諸条件は先方のおっしゃるとおりにして、すぐご入居いただきました。ご出産は夏、その後も原発の状況次第で札幌にとどまるかもしれない、というお話でした。

●4月に入った頃、千葉のアパート1件が傾いているとの連絡が
 自宅は大きな被害にあわなかったものの、原発の影響や道路事情の影響その他で食料や物資の不足、計画停電などと相次ぐ余震に落ち着かない日々が続きました。ガソリン不足が続き、千葉の管理会社さんはなかなか管理物件の状況を把握しきれずにいたようです。ようやく日常生活が安定しはじめたころ、木造アパートのひとつが目視ではっきりわかるほど傾いたとの連絡が入りました。
 この物件は4戸建てで満室でした。震災直後に一番傾きが激しかった1階の入居者さんが失業し、すぐ退去されたあとのことでした。
 千葉県は場所によって地震の被害が大きかった県ですが、私が物件を所有している市原市はインフラがすべて正常だったため、残りの3戸は入居中です。でも、管理会社さんが目視しても傾いているといいます。
 余震が続いているので、さらに傾きがひどくなることも十分ありえます。すぐ退去していただくよう打診してもらったのですが、なぜか3戸の入居者さんとも「気にならないので退去しません」と言われて困惑しました。

●傾いたアパートの修理をお願いする業者探しに苦戦
 アパートが傾いた場合、誰に修理をお願いするべきなのでしょうか。実は400戸の物件を管理している管理会社さんも、通常のリフォーム屋さんでは対処しきれないため、紹介できる業者がないのですと困っていました。
 いずれにしても、まず現地調査に来てもらえる業者を見つけることが先決なのですが、インターネットで「木造アパート 傾く」といったキーワードで見つけた業者さんには東北から依頼が殺到していて超ご多忙でした。あいにく中古で購入したこの物件には建設当時の図面がありません。図面がない場合は引き受けられないと言われて途方にくれていたのがこのころのことです。
 退去しないですと言っていただいているのはありがたいのですが、傾いたアパートに住み続けていただくことが心苦しく、かといってすぐに修理もできず、もんもんとした日々が続きました。

●埼玉の妊婦さんが退去を決める
 梅雨を迎える前でしたでしょうか、アパマンプラザの佐藤さんからご連絡がありました。埼玉県からいらしている妊婦さんが、出産前にやはりご自宅に帰ることになったので退去するとのご連絡です。原発の状況が一応最悪の事態に至らなかったということが理由でした。なによりも慣れない土地でご主人と離れてのご出産は精神的にもご負担が大きかったはず。臨月になる前に飛行機で帰宅できるギリギリのタイミングだったとのことです。ご家族がいっしょに生活できて無事にご出産に至ることを願いながら、契約終了を了承しました。

●退去直後に入居が決まる
 この物件は、家具家電をしっかり設置したリフォームが好評でした。独立洗面台があり、バストイレ別で広めの1Kです。単身赴任者、短期入居者、2人入居にも対応できるので、やや高めの家賃でもほとんど日を置かずに入居申し込みをいただけるのがありがたかったです。今回は独身女性からのお申し込みでした。

●千葉の物件、地震保険全損扱いに
 このころ、損害保険会社から検査が入り、木造アパートは「全損」扱いになりました。繰り返しますがこの物件には入居者さんがそのまま住み続けています。そんな物件が「全損」。なんとも複雑な思いでしたが、地震保険500万円で傾いたアパートを元に戻さなくてはなりません。知り合いの一級建築士に相談して地盤調査に入ってもらいました。こちらも依頼が殺到中で、見ていただいたのは夏を迎えるころでした。

●真夏に千葉の物件修繕完了
 地盤調査の結果を踏まえ、いくつかの修繕方法のご提案をいただき、こちらの予算と合わせた結果、8月に工事に入っていただくこととなりました。ジャッキアップをしていただいて傾いたアパートを引き上げ、一番傾きが大きかった部屋を全面リフォーム、ようやくこちらの懸念が払拭できたのは9月を迎える直前でした。
 結局修繕費用は損害保険でおりた金額を大きく超える大規模なものとなりました。空き室だった部屋には小学生がいるご家族からお申込みが入り、この物件は無事満室となりました。

●独身女性が退去
 年末を控えるころ、札幌の物件に入っていただいた女性が退去するとお知らせをいただきました。札幌での生活にピリオドを打ち、ご実家に戻られるとのこと。ほどなく札幌市内の方から、積雪のシーズンに通勤に便利な物件に短期入居したいというお申し込みをいただき、今回もほどなく入居者が決まりました。

 このように、2011年は千葉の木造アパートと札幌の1K物件に大きな変化があり、例年になくあわただしく対処に追われる1年となりました。
 液状化していない場所でもアパートが傾くようなことが起き得るということが私には大変大きなショックでした。購入当時は立地と間取り、購入価格と利回りといったことばかり気にかけていて、よもや土壌そのものが軟弱な場所であったなどと想像する余地すらなかったことが大きな反省点でした。幸い市原市全体はインフラも損傷はほとんどなく、地盤も弱くなかったのでこの程度で済んだのですがもし周辺一帯が土壌が軟弱でインフラに壊滅的な打撃があったら立ち直れずに売却を余儀なくされていたかもしれません。購入時の思慮不足を強く反省する機会になりました。
 この経験を踏まえ、震災をきっかけに損害保険の加入状況をすべて見直しました。今回大きな被害を受けたアパートは補償金額を倍増させました。損害保険に加入していなかった区分所有物件もすべて地震保険付きの損害保険に入り直しました。
 一方、札幌の物件については、震災前に実施していた対策が強いアピールポイントになったことを実感できました。 入居した時点で生活に必要なものがほぼそろっている状態まで家具家電装備をしたことで、札幌中心部から少し遠方にあった1K物件は空室になってもすぐ入居者が入り高めの賃料を維持できる優良物件に生まれ変わりました。供給過剰と言われる札幌市内でも、十分アピールして高めの家賃を維持できることも学べる貴重な機会となりました。