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草野 裕樹
日本におけるバブル景気が崩壊し、不況下におけるデフレスパイラルに突入して長い期間が経つ。政府はデフレスパイラルについては収束を迎えたとの見通しを持っているようだが、実際の民間細部においては未だに激しいデフレスパイラル下にあるといえる。穀物の国際市場価格の高騰により、自給率の低い我が国においてはパンや乳製品が高騰し、レアメタルなどは手に入りにくくなってきている。この事は住宅供給にも言えることであり、リート物件などは新築ということもあり賃料が下げられず大きなダメージを負っている。
札幌において不動産投資が過熱してきたのは今から7年~10年前。当時はバブルも崩壊し、株券などの有価証券が紙くず同様になった時代である。その際に、不動産は失敗しても必ずある程度の価値があり、紙くずにはならないとして、「安全」な投資という触込みで人気が出てきた。実際、札幌の賃貸物件は安価で手に入れやすく、販売に出ている物件自体も概ね良好な物件が多かったということも根底にある。また、札幌における強い人気の秘密は、他の投資物、他の場所の不動産投資と比較しても高い利回り弾き出すということに注目が集まったといえよう。もちろん、今もその傾向は変わらず、主に本州より大きな投機資金が流れ込んできている。
だが、最近その動きに大きな変化が現れ始めている。近年、大きな人口集約機能をもつ北関東以北の大都市・札幌にはその機能と住宅需要を見込んで大きな投機資金が流れ込んできていた。俗にいう「リート」である。大型のものは300世帯もある大型マンション、小さなものでも数十戸という規模のマンションを建て、そこから潤沢な高利回りを得ようとしたのである。当初、新築の物件自体が少なかったこともあり希少価値を楯にこれらは続々と高収益を出していった。札幌におけるリート自体が成功するかに思われた。実際、札幌において新築マンションは希少であり、絶対数が少なかった。
しかし、近年、同じように各ファンドが投機に乗り出したため、バランスは崩れ、以前のような安定した利回りを出さなくなってきた。札幌において新築マンションの入居率は現在かなりの低迷をしており、場所や周辺環境などが良くなければ、新築物件といえども既存物件と変わりないように空室率50%前後という異常な事態になりつつあるように思える。新築物件の既存物件に勝る点は「新築」というプレミア感(優越感)、最新設備などの導入による「使い勝手」などが挙げられる。
ではなぜ、その利点を持っても既存物件に勝てないのか?それは、勝てない物件の多くは「場所の利」が無いからである。既存物件(特に分譲賃貸)においては、簡単に取り壊したりすることはなく修繕を繰り返し維持されていく。その上、札幌の分譲マンションは主に場所については地下鉄横だったり、繁華街の真ん中だったりと場所の利は抜群である。それゆえ、設備が旧式でも、外観が綺麗なタイル張りでなかったとしてもある程度維持管理されていれば、「不便な新築物件」より「便利な既存物件」が重用されるのである。これは入居率を見ても如実に差が分かる。もちろん、新築で利便性が良く格安だったら、既存物件に勝ち目は無いかもしれない。しかし、やりようによっては充分対等に、もしくは優位に戦略を立てることが可能なのである。
投資において必要なものは「安全性」と「収益性」と「回収効率」である。見た目に惑わされれば、一寸先は闇の中である。厳しい状況下でも、勝てる戦いでないならば一戦交えないのも戦略なのである。勝てる見込みのある投機をしなければ、安全な投資といえども回収は難しいということを学ぶ必要があると私は思う。