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草野 裕樹
毎年この時期の不動産の動きは単調で、春先に目立つような「即決」という内容のものは少ない。即決せず、しばらく考え、他と比較して優れているものを選んでいくというスタイルが目立つ。これは物件が多くあるのに対して、需要のほうが少なく、敢えて急がなくても成約になる可能性が低い時期だと分かっているためである。
ではこの状況はどのように構築されているのだろうか。数年前より札幌における不動産投資は高い利回りと良質な入居状況に後押しされて増加の傾向をたどってきた。一棟物のアパートやマンションを始め、区分所有のものだったり、投資集団による買収・利益配分など多くの手段を講じられ資金が投下されてきた。その状況にあって、投資対象物は簡単に壊すことが出来ない「物」なので資金が投下されればされただけ対象物は増加していき、更なる供給となって需要を取り込もうという流れに繋がる。その行為が繰り返し実行されると供給が需要を超えていき、パンクしそうになっている状況を何とか打破しようという動きを見せ始める。そのころには周りを見渡すと多くの収益物件が犇めいており需要を取り込もうとする競争激化が見て取れるようになる。競争の中では各々が他の物件よりも何が優れているかを主張するようになり、何もしないところは(何ら提案をされないと)家賃を下げるだけの戦略を打ち、家賃の下げ合いになってくる。現状の札幌はその傾向にあり、各々の良さを需要に対してアピールするより価格パフォーマンスを重視する方向にあるので例えいい物件があっても他のものに値段を引っ張られてしまうことも少なくない。
ではこの状況はどのように打破すべきなのか。まず、低家賃競争から脱却が必要であり、数ある中の一つにて市場原理のまま戦うより物件の持つ優位性を生かしながら工夫を凝らししていく必要がある。多くの物件と競合すれば競合した分、多くの人に見てもらうため宣伝をしたり雑誌掲載やネットの登録、業者への斡旋のお願い挨拶など募集の際や広告を打つ際に労力と費用を多大に必要とし不経済である。また、必要なものとしては他にはないものへの先行投資である。他のマンションには無いような設備の増設や、物件の価値を向上させるような設備を整えることが需要を取り込む原動力になってくる。例えば家具家電一式が付いている部屋に掃除機を追加して付けるだけでも印象は変わってくる。何も付いていない部屋と同じタイプの部屋に洗浄便座と照明を付けたものを比較すると、十中八九設置されているものを需要は選択する。この対費用効果を考える上で空室期間ということを加味して考えると掃除機にしても、洗浄便座にしてもわずか一カ月間分の賃料程度で設置が可能、つまり回収が可能なのである。
札幌市内には多くの空室がある。もちろん全てが賃貸募集しているとは限らない。だが、そのほとんどは募集状況になっており、現在でも新たな入居希望者を得ようとしている、いわば商品である。商品が捌けるか否かは貸主もしくは売主次第であり、今まで通りの一色単なやり方では見向きされなくなってきているのである。その状況を的確に見極め提案・アドバイスするのが我々の仕事だが全ての業者、担当がそのことを出来るわけではない。これからの不動産業は今まで通りのフルオートな仕事はリスクを増やすばかりでなく多額の費用を要することから、ある程度の判断と指示が出来るようなセミオートな業務体系・営業体系が求められていくと思う。そうした中で一番必要なものは何か・・・それは選ばれる「理由」を的確に提案できる経験と先見なのではないだろうか。