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草野 裕樹
「5月」という月の位置付けは毎年繁忙期後の中弛みというイメージがある。実際来店するお客様の言動や考え方などを見ていると即決しなくても物件が残っている、または他にも同じような物件が多数あるというようなイメージを受ける言動が目立つ。いいものがあれば引っ越しを考えたいという半ば冷やかしのような来店さえある時期であるが、今年は少し違った動きが見えたような気がする。
5月に入るとゴールデンウィークが初旬にあるため、マンション投資を行っている方などは連休を利用しながら旅行を兼ねて物件の下見やチェックに来ることが多いのだが、今年はそれが少なかった。震災後という事もありゴールデンウィーク自体がお金を使わないような自粛感を漂わせていたのではないかと推考される。しかし、その反面例年ではほとんど無かった賃貸の来店などが多く見受けられたような気がする。5月を振り返ってみると実際に契約となっている賃貸成約数も例年から比べると多かったと思う。ではなぜそのような事象が見受けられたのか。
今年三月にあった震災により、日本全土で自粛ムードが漂っているため投機資金を現金という形でストックする案件が多く見受けられる。その状況下において金額の大きい不動産投資にはなかなか資金が回らず、逆に現金化する動きなども一部見え隠れしていたと思われる。そのため不動産投資としての成約案件も金額が比較的安いものか、通常と比べて割安感のあるものが取引になっていると感じる。一方の賃貸は繁忙期が過ぎたため賃料がやや下落傾向にあったのに加えて、震災により賃料を下げてでも安定した賃貸を望むオーナーが増えたこともあり市場に割安な物件、ある程度時期や契約内容に融通が利く物件などが人気となり、特に家具付きは大きく需要を伸ばしていると思われる。ここで言えるのは、数的に比較すると賃貸のほうが圧倒的に多いのだが、売買においても潜在的な需要はありコンスタントに申し込みにはなっているという事である。現地や現物を見に来店する投資家の方は少なかったが、ある程度取引件数があり、物件の詳細・内容も知られているような物件で安価なものが取引となっていたという事になる。つまり常時取引になっているような安定性のあるもの・流通しやすい物件が取引になっているのだと思われる。
不動産は人間がいる限り、都市部であれば少なからず動きのある商品となる。だが現在の景気の動向をみる限り明るい材料は無いに等しい。その状況において動きがあるのはあくまで立地と利便性、周辺環境の整ったごく一部の物件に限られ、これは賃貸の動向にも言えることではないだろうか。賃料を限度なく安くしていけば賃貸が決まるのは当然であり必然である。しかし、その逆をいくのは非常に難しいことである。だが、緩やかな動向がある時に動く物件こそ、不動産投資として底力を持つ商品なのかもしれない。